中国で一、二を争う大飯店、「妃悠磨」と「華堅」。それぞれ味にはたいそうな評判があったが、その本質はまるで違うものだった。「妃悠磨」の方針は、愛情を以って調理することがいかに料理を食べる人に幸せを与えるといったもの。一方、「華堅」は、金には糸目をつけず、いかに良質な食材を用意して、美味な料理を提供するか、といったものだった。両者の体制はお互いに水と油のように反発しあっていたが、いずれも料理人であれば誰もがあこがれる、門狭き名門であった。紗夢 もまた、この世界に名を残さんと日夜修行に明け暮れる見習い料理人である。 同じ料理界の高みを臨む者として紗夢 は、このどちらにも興味がなかった。彼女にとって両者の対立関係は全く以ってナンセンスであったからだ。何故なら、紗夢 にとっては誰が食してもおいしい料理を作ることが全てであって、料理が作られる過程や、食材の善し悪しがどうであれ、美味いものを素直に美味いと言ってもらうためには、両者のポリシーは足かせに過ぎないという考えがあったからである。ただ、その持論を証明するためには、いっぱしに店を構える必要があった。そこへ今回の賞金話が舞い込んできたのである。 |